僕の時間

読んだ本、観た映画、聴いた話。経験した時間を言葉にする練習を繰り返す日々。

一九八四年

 「1Q84」という村上春樹の長編小説があります。

 ですが、今回紹介するのは、ジョージ・オーウェルの「1984」です。

 ちなみに、僕が先に読んだのは村上春樹の方でした。

 後世にとても大きな影響を与えた作品だと思うので多くの方がなんとなく知っているのではないでしょうか。

 

Nineteen Eighty-Four/1984

ジョージ・オーウェル George Orwell
1949年6月8日第1刷発行

一九八四年[新訳版]

ハヤカワepi文庫
訳者:高橋和
2009年7月25日第1刷発行
 発行所:早川書房

https://instagram.com/p/9ldfuok7HE/

10 #bokunojikan

 

 「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」

   ーBig Brother is watching youー

 例えば、ストリートファッションブランドのObeyとかにまで浸透しているのが、「1984年」です。 

www.obeygiant.com

 それ以外にも、情報化社会が進む今、「マイナンバー制度」などが議論される際にはよく「1984年」が例に出されます。それほどまでに社会に衝撃を与えたSF作品だといえるのでしょう。

jbpress.ismedia.jp

  

 前置きが長くなってしまいました。ここからはいつも通り、私が感じたことを完結に。

 この作品を読んで感じたことは、「恐怖」であります。そして、小説で描かれるからこそ、その「恐怖」はリアルさを増すのだという感覚がありました。

 一人称で描かれ、主人公ウィンストン・スミスを通じて見事なまでの管理社会を目の当たりにすることになります。そうしてスミスとともに物語を歩みます。だからこそ、「恐怖」するのだなぁ、、、ということです。

 

 全く文脈と関係ないのですが、改めて「1984年」を調べていたときに、

・『一九八四年』 吉田健一・龍口直太郎訳、文藝春秋新社、1950年。 - 書名は奥付等によるもので表紙などの表記は1984。現在は絶版。

・『1984年』 吉田健一・龍口直太郎訳、出版共同社〈世界の名著〉、1958年。 - 現在は絶版。 

 というのをwikiでみつけて驚きました。日本では吉田健一さんによって訳されたのが最初だったんですね。そちらの訳版も絶版ですが、いずれ読んでみたいものです。

 

 

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

 

 

旅する力

 バックパッカーとなり異国の地を自分一人の力で「旅」をしてみたい。

 そんなことを、ふと考えることがあります。

 とはいえ、なかなか踏み出せないのものです。

 少しでも何か参考になる本はないものかと思った時に手に取った1冊です。

 

旅する力

深夜特急ノート
沢木耕太郎
2008年11月28日
2011年5月1日文庫版発行

https://instagram.com/p/9izokfE7IV/

9 #bokunojikan

 

 著者による「深夜特急」シリーズはとても有名であり、バックパッカーのバイブル的な本でもあります。そんな人々を旅へと誘う「本」を書いた著者が、旅に出た理由や、旅に対する考え方などを旅の恐さもしっかりと触れつつ語っていく本でした。

 

 今は昔と比べると、格段に簡単にどこにでも「行く」ことができます。

 しかし、「旅」と「休暇」は全く別もなのだと思うのです。

 本書の中でジョン・スタインベックの「チャーリーとの旅」を引用し、

長い期間にわたって旅を計画していると、心中ひそかに、出発したくないという気持ちが起きてくるものである。<P356/L6> 

 と書いてあったり、

どうして行かなくてはならにのだろうか。別に行かなくてもいいのではないか。行かなくてもいい理由をいくつも数え上げるのだが、どれも決定的な理由ではない。そうこうしているうちに行くと決めていた日が近づいてきて、仕方なく出発するのだ。<P357/L7>

とも書いてあります。

 「休暇」でどこか行くときに、そんなことを考える人いるでしょうか。それこそ、「旅」と「休暇」の大きな差が表れているような気がするのです。

 なんとなく僕自身は、「旅」とは移動のことであり、「休暇」とは滞在することであり、はっきりと分けられるものなのではないかなと考えています。

 

 兎にも角にも、「旅する力」を読むことでより一層どこかに「旅」にでたいという気持ちが高まりました。まだ、「深夜特急」シリーズは読んだことないので、時間があれば読んでみようと思います。

 

 

旅する力―深夜特急ノート (新潮文庫)

旅する力―深夜特急ノート (新潮文庫)

 

 

本の逆襲

 「出版業界はこの先長くない。」

 「紙媒体はなくなる。」

 などといったことが頻繁に言われ続けていると思います。

 果たして本当にそうなのでしょうか。

 

 「本」は今どうなっているのか。

 そしてどういう道を歩もうとしているのか。

 

 そういった、これからの「メディア」のあり方に僕は非常に興味があります。ちょっと前になるのですが「B&B」という変わったことを仕掛けている「本屋さん」にいきそこで「イベント」を経験しました。そこは、とても小さな「本屋さん」なのですが、様々な工夫がなされていました。

 本当に街の「本屋さん」は無くなってしまうのでしょうか。

 そういった「本の世界」の最前線で様々な試みを実践している内沼さんの書いた1冊を今回紹介したいと思います。

 

本の逆襲

内沼晋太郎
2013年12月11日第1刷発行
発行:朝日出版社

https://instagram.com/p/9fehAmE7Oy/

8 #bokunojikan

 

 「B&B」とは「Book & Beer」を略した店名の下北沢にある本屋さんです。

bookandbeer.com

本で語られている部分を引用すれば、

B&B」は、<本屋×イベント×ビール×家具>です。<P156/L2「『本屋はメディア』を本気でやる」>  

というコンセプトをもとに独自に新しい「本屋」の形を創り上げていっている注目すべき「メディア」であります。

 現在は、メジロフィルムズという小さな映画配給レーベルまでたちあげています。

motion-gallery.net

  そんな、行動をどんどん起こしていく内沼さんが、出版業界が不況に苦しんでいる中あえて「本の未来は、明るい。」と明言して書いた1冊の中には、「本」の生き残る方法がとても具体的に書かれています。

 しかも、本の流通の現状から、「本」の拡張性、デジタルの展望まで非常にわかりやすく簡潔に書かれていて、出版業界に明るくなかった僕でも一読するだけで理解することができました。

 なにより、著者の内沼さん自身が若いこともあって、若者側の視点で語っているためにとても共感できるところが多かったです。

 大手出版社が統合したり、駅前の大きな本屋が閉店したり、新しいインデペンデンスの出版社が相次いで登場したり、Amazonと直接提携を結ぶ出版社が増えたりと、とにかく出版業界を取り巻く環境は今まさに大きな転換期を迎えているのでしょう。

 前日紹介した松家さんも、インデペンデンスの出版社を立ち上げ、雑誌「つるとはな」を創刊していますので、ご紹介しておきます。

www.tsuru-hana.co.jp

 

 そんな、「本」というメディアを取り巻く環境の変化には今後も注目していきたいと感じています。そして、そんな状況を、この1冊はとても丁寧に教えてくれました。

 確かに出版業界の未来は暗闇が広がっているのですが、同時にそれはとても面白い状況にあるとも言えるのではないでしょうか。

 

 

本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)

本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)

 

 

火山のふもとで

 僕が初めて松家先生と会ったのは、大学一年生の春、右も左もわからずにとった「メディアの変遷と未来」という講義であり、先生は講師という立場で壇上に立っていたときになります。今思えば、それはまさに、「新潮」で「火山のふもとで」が発表される直前ですから、色々と準備をされていたころだったということになるのでしょう。

 松家先生のことを知らなかった僕は、そんな事情を知る由もなかったのですが、ゆっくりと丁寧に一つ一つ選んで話される姿や、講義で映しだされるスライドがシンプルで雑味のない感じをうけ、不思議と心がとても惹かれたことを覚えています。一回も出席を取らない授業であったのですが、毎回の授業に多くの生徒が先生の言葉に静かに耳を傾けていて、私自身一回も休むことなく出席した講義でした。

 そんな魅力のある先生が書かれた1冊を今回紹介したいと思います。

 

火山のふもとで

松家仁之
初出「新潮」2012年7月号
2012年9月30日第1刷発行
発行所:新潮社

https://instagram.com/p/9dq671E7C5/

7 #bokunojikan

 

 後になって、松家先生は長年「考える人」の編集長をなさっていたことや、小説を書いていたことを知りこの本を手に取ったのですが、初めて会ったときの印象や、講義の印象とは全く違う一面をこの本を介して知ることができたような気がしています。

 ですが、豊かな自然や、建築美学、図書館設計というテーマから時々覗きみえる本に対する愛情といったものは、まさに先生の積み重ねてきた時間でそのものであり、先生の凄みを感じずにはいられませんでした。それは講義でも感じていた類のものでありました。そして改めて、それらをとても丁寧にしなやかな文体で優しく語っているところに先生の人柄や、文化に対する愛情が感じ取れたような、そんな気がしています。

 僕自身、建築には興味はなかったのですが登場する建築家の名前や場所を検索したりして、あるいみ雑誌てきな文化との「出会い」もできると思います。

 場面が色彩を帯びて、匂いや、空気の温度まで想像できるとても幸せな小説体験のできる1冊です。

 

 松家先生については、まだまだゆっくり語りたいのですが、今日はここら辺で。

 

p.s. 風邪をひいてしまい一日休んでしまいました。。。一日やらないだけで、なんとなく億劫になってしまいましたが、なんとか踏ん張って引き続き頑張りたいと思います。

 

 

火山のふもとで

火山のふもとで

 

 

桶川ストーカー殺人事件

 ジャーナリストを志したからには、「ジャーナリズム」とは何だということを多少なりと考えた方が良いのだと思います。ですが、私はあまりそういったことを考えてきたことはありませんでした。そして、そこに明確な「答え」があるわけではないのだろうと、なんとなく想像しています。きっと個人個人がジャーナリストとなり経験を積む中で、自分なりの「答え」を見つけていくものなのではないかと思うのです。ですから、今からあまり考えすぎなくていいかなと思うのですが、知識として知れることがあるならそれはなるべく知っとくべきかなと思い、手にした1冊になります。

 

桶川ストーカー殺人事件 

ー遺言ー
清水潔
2000年10月発行
文庫版:2004年6月1日第1刷発行
発行所:新潮社

https://instagram.com/p/9Yh5RuE7MF/

6 #bokunojikan

 

 上で述べたようなことを考えてる時に、「記者の教科書」というフレーズが目に止まりました。著者の清水潔さんがどういった人物なのか描かれているページをいくつかリンクしておくので参考にしてみてください。

twitter.com

newspicks.com

 

 一読して感じたことは、「人を疑うこと」をとことん忘れないで行動していく清水潔さんの凄さです。常に疑問を投げかけ、思考すること。たとえどんなに時間におわれる状況だとしても、「人」ベースに思考を続け、結果としてひとりの週刊誌記者が、殺人犯を探し当て、警察の腐敗を暴くに至ったという事実があることに驚きました。

 僕は、すぐ身近で、しかもごく最近の起きたことを全く知らなかったのです。

 甚だ無知であることを思い知らされました。(もちろん無知なことなど先刻承知だったのですが、、、)

 ですから、今後も引き続き「ジャーナリズム」に関連する本を読んでいきたいと思います。

 

 

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

 

 

ソラリス

 僕はこの作品を安易な気持ちで手に取ってしまいました。

 「SF」というジャンルに属する小説の中では非常に評価の高い、SF史上としての名著くらいの気持ちです。

 しかし、それは僕の「SF」に対する考えがあまりにも狭義であったということを思い知らされた、そんな1冊です。

 

ソラリス SOLARIS

スタニスワフ・レム Stanisław Lem
1961年発行
訳者:沼野充義
2015年4月15日第1刷発行
(2004年9月国書刊行会から単行本として刊行された作品を文庫化したもの)
発行所:早川書房

https://instagram.com/p/9WCgnSE7E-/

5 #bokunojikan

 

 作者のスタニスワフ・レムは旧ポーランド領ルヴフ出身の作家であり、SFの第一人者や、20世紀世界文学史上の巨人の一人に数えられるほどに有名な方です。オフィシャルサイトがありましたので、一応載せておきます。

lem.pl

 そんなことを知らずに読み進めたのですが、すぐに普通じゃないぞと感じました。

 フィクションを描くとき、特に「SF」を描く際には詳細にリアリズムが見出せれることが大切であるとよく言われると思います。この作品においてそのリアリズムとは「ソラリス学」と呼ばれる本の中で扱われる学問で特に色濃く示されています。その濃さと巨視的思考の数々に圧倒されました。

 少し「ソラリス学」について説明すると、それは人智を超えた存在と遭遇した際に生じる思考実験です。あとがきにある、ポーランドの文学研究者、イェジイ・ヤジェンプスキの言葉を借りれば、それは

存在論的論考であり、科学についてのーその限界と可能性を論ずるー言わばメタ科学小説でもあり、人間の意識をめぐるデカルト的寓話でもあり、神をめぐる形而上学的小説であり、そして最後に<コンタクト>をめぐる典型的なSF小説でもある

ということになるのでしょう。

 僕があまり言及するには「ソラリス」は複雑であり、多様性をもち、多様な解釈が可能な古典作品であるということです。

 ですから僕が感じたことだけを簡潔に述べるとすると、「SF」とは多くの日本人がもつイメージよりも重厚で、深みがあり、面白いものだということが知れる1冊だということです。

 

 

 

ヨーロッパ退屈日記

 「この本を読んでニヤッと笑ったら,あなたは本格派で,しかもちょっと変なヒトです」

 山口瞳さんによる、そんなキャッチフレーズが書かれた本を僕は友達に教えてもらいました。

 本は人との出会いであり、対話であるとよく言われますが、中でもエッセイは筆者と特別で親密な関係を結ぶのだと思います。

 そう僕は「伊丹十三」と出会ったのです。

 

ヨーロッパ退屈日記

伊丹十三
1965年3月第1刷刊行
発行所:文藝春秋新社
1976年7月文春文庫にて収録
2006年3月1日復刊
発行所:新潮社

https://instagram.com/p/9TTDqUE7Bb/

4 #bokunojikan

 

 「伊丹十三」とは知れば知るほど、多くの人を魅了した人物であることがわかってきます。そのことがわかるサイトをいくつかここにあげておきます。

ほぼ日刊イトイ新聞-ほぼ日の伊丹十三特集

考える人

 おそらく知識という点ではこの本に書かれていることは現代では決して画期的な発見ではなく、その点では出版した当時とは大きく状況が変わっているといえます。

 ですが、決してそこが重要なのではないのだと思うのです。

 

 29歳のちょっと年上のお兄さんは、現代失われつつあるユーモアを教えてくれます。

 それは礼儀作法であり、ちょっとした豆知識であり、哲学でもあります。

 こんな人と僕は出会ってきませんでした。それはまさにカルチャーショックそのものでした。

 

 密会後、僕はついついニヤッと笑っていました。

 

 

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)