僕の時間

読んだ本、観た映画、聴いた話。経験した時間を言葉にする練習を繰り返す日々。

俳優のノート

 この1冊は、ある出版会社の説明会でお会いした編集者の方に教えていただきました。

 

 他人の前で「演じる」。それはごくごく普通の人でもやることだと思うのです。

 では「演じる」ことのプロフェッショナルは、どんな日々を過ごし、どんな時に「演じる」のでしょうか。

 そして、俳優という人々は、なぜこんなにも魅力的なのでしょうか。

 

俳優のノート

山崎努
2000年3月「メディアファクトリー」第1刷発行
2003年8月「文春文庫」第1刷発行
2013年10月10日「文春文庫」新装版第1刷発行
発行所:文藝春秋 

https://instagram.com/p/-Bwx1hE7Ie/

17 #bokunojikan

 

 山崎努をはじめて観たのは、ドラマ「クロサギ」だったような気がします。今でも覚えているのですから、その時になにか強烈な存在感を感じていたのでしょうか。本書は、俳優山崎努シェイクスピアの戯曲「リア王」を演じるにあたって書き記した日記になります。四大悲劇中最も壮大な構成と言われる「リア王」を、山崎努は準備に2年、稽古に34日かけて望むのです。

 ああ、「演じる」とはここまで出来るのか・・・

 「演じる」とは「偽る」ではないのだ。だから人々が生活のなかで「演じる」ことと、俳優が「演じる」ことでは全く異なることなのだ。

 僕はそんなことを思い知らされました。そして、人は己の信念のためであれば、ここまで徹底的に没頭することが出来るのかということを見せつけられました。同時に、孤独な対話が人と人を結び、その対話は舞台上でまた再び人と人を結ぶ演劇の魅力にも気付かされました。

 

 また、本書では、稽古の途中で伊丹十三の死が山崎努に伝えられる場面があります。伊丹十三山崎努という二人の俳優。どんな会話がなされていたのだろうか。俳優を志したことは今まで一度もなかったですし、学校の演劇ですら役の立候補をしたことないのですが、生まれ変わったら志してみたいなぁ。

 

 

俳優のノート〈新装版〉 (文春文庫)

俳優のノート〈新装版〉 (文春文庫)

 

 

日本語の歴史

 「文章読本」を読んで、日本語についてなんとなく一通りの歴史を知りたいと思ったので、早速手に取ってみました。

 

日本語の歴史

山口仲美
岩波新書(新赤版)1018
2006年5月19日第1刷発行
発行所:岩波書店

https://instagram.com/p/9_T9Qok7JO/

16 #bokunojikan

 

 内容は、日本語学についての入門書であり、日本語の歴史をざっと一通り見渡せるようになるのに最適だったかと思います。山口さんの日本語愛と、一般の人に興味をいかにもってもらえるかという工夫が随所に見られ、例えば、江戸時代では「おれ」と女性もいっていた、のような日本語に関する雑学的知識も多く書かれていました。

 大和言葉が独自の書き言葉を持たずに、中国文化の漢字を書き言葉として取り入れながら、日本語として成熟させていったことや、その結果、漢字、カタカナ、平仮名という3種類も文字を創り上げたこと、そしてそこに西洋文化まで入ってきて日本語はさらに変化していった歴史のことなどを考えると、今の言葉の捉え方がやっぱり変わるような気がします。

 言葉の成熟があって人の成熟があるのであって、その逆はないのかなぁ。んー、、、成熟ってなんだろう。

 

 

日本語の歴史 (岩波新書)

日本語の歴史 (岩波新書)

 

 

文章読本

文章がうまくなりたい。

面白く、味があり、深みと凄みもありながら、スッと沁みいる文章を書きたい。

そのようなことを強く意識し始めたのは、ごくごく最近のような気がします。

 

普段はあまり、所謂、"How to 本"は読まないのですが、文章の書き方、なにが良い文章なのか、等を掴めるような"How to 本"があればなと感じているときに、「MONKEY vol.7」の中で村上春樹が「丸谷才一」という人物を挙げていたところから検索しているうちにたどり着いて手に取ったのが、今回の1冊になります。

 

文章読本

丸谷才一
1977年9月20日第1刷発行
1980年9月10日「中公文庫」第1刷発行
1995年11月18日「中公文庫」改版第1刷発行
発行所:中央公論新社

https://instagram.com/p/98ojoaE7Gv/

15 #bokunojikan

 

 「文章読本」というのは、他にもあるわけですが、これが僕にとっては最初の1冊目でした。端的で、とても丁寧で、実際的、論理的でした。というのも、第2章ですぐに、

文章上達の秘訣はただ一つしかない。(中略)秘訣とは何のことはない名文を読むことだ <P23/L1>

 とあるのです。そうしてその後、では名文とはどのようなものかと、名文を引用しながら、要素を説明一つ一つ体系立てて具体的に説明していってくださるのですから、これ以上の「文章読本」はないように思えるのです。

 それはつまり、丸谷才一の文それ自体が、重厚で説得力をもちかつ、読ませる名文であることに違いないのです。

 そんな名文を読んでいて、なんとなく出版されたのはもっと前かなと思いましたし、丸谷才一さんが亡くなったのは2012年10月13日であり、つい最近であったことを知って少し驚きました。決して復古主義的なことを言いたいのではなく、「文化」の縦の長さが、僕が今まで思っていたよりも短いような印象を受けたということです。「文章読本」を通じて、「文語体」を教わるはずが、丸谷才一さんから、僕が「文語体」だと勘違いしていた今当たり前のように文章で使われている、「口語体」についても深く教わることで、同時にその歴史の短さを思い知らされたということです。

 

 その結果、迷ったときは、この本を読みに戻ってくれば良いのだとさえ感じさせられた1冊となりました。とは言え、今回、この記事から文章がうまくなっているはずはないということは理由を述べるまでもないでしょう。

 

 

文章読本 (中公文庫)

文章読本 (中公文庫)

 

 

白鯨

 なぜ手に取ったのか、その理由をはっきりと答えられない本、それはつまり忘れてしまった、若しくは、言語化できないのどちらかであるのですが、今回紹介するのは前者に当てはまる本です。

 ただ、何かしら思うことがなければそうそう手に取らないであろうボリュームの本ですし、世界的に有名な1冊ですから、何かに惹かれたことは確かなのですが。。。

 

Moby-Dick; or, The Whale

ハーマン・メルヴィル Herman Melville 
1851年11月中旬
白鯨[全3冊]
岩波文庫 赤308-1~3
訳者:八木敏雄
2004年第1刷発行
発行所:岩波書店

https://instagram.com/p/93pkoVk7Kw/

14 #bokunojikan

 

 「白鯨」はアメリカ文学を代表する作品です。今年、2015年に上映された細田守監督作「バケモノの子」の劇中で登場し、非常に重要な役割を担っていたことが記憶に新しいです。付け加えれば、「スターバックス・コーヒ」の店名は「白鯨」で登場する一等航海士「スターバック」が由来とも言われています。

 そんな「白鯨ですが、正直にいって、ただ一読しただけの僕にはとても語ることができない作品です。

 そこで訳者である八木さん解説を引用しますと、

単なるイシュメールなる若者の個人的な成長と経験にかかわるビルドゥングスロマンでも、また単なる海洋冒険小説でもなく、全人類と全世界、いや全宇宙にもかかわり、さらにはアメリカそのものにもかかわる物語である<(下)P437/L10>

と言うことです。つまり、テーマが複雑で、解釈の幅が広い作品なのです。しかも、それだけではなく、「棺桶」をもって物語は循環し、終わることはないのです。

 

 うーーん、、難しい…

 

 読んでない人にはさっぱりだと思います。情けないですが、僕が言えるのは、登場人物の中では「スタッブ」が好きだなーってことくらいです。魅力的に語れないし、語る自信がないのです。それは、作者メルヴィルとの距離が遠いってことなのでしょう。まったくもって力不足。いつか再挑戦したいと思います。 

 

 

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

 
白鯨 中 (岩波文庫)

白鯨 中 (岩波文庫)

 
白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)

白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)

 

 

不道徳教育講座

世界をどうみるかで、何者であるかが決まる。

ー The way we look at the world is the way we really are.

この台詞は、「ボブ・ディランの頭の中」(原題:Masked and Anonymous)というディラン自ら脚本を手掛け主演した異色の音楽コメディ映画のラストシーンでディラン演じる主人公のジャック・フェイトが語る中で出てくる一文です。

youtu.be

"I was always a singer and maybe no more then that. Sometimes it's not enough to know the meaning of things, sometimes we have to know what things don't mean as well. Like what does it mean to not know what the person you love is capable of? Things fall apart, especially all the neat order of rules and laws. The way we look at the world is the way we really are. See it from a fair garden and everything looks cheerful. Climb to a higher plateau and you'll see plunder and murder. Truth and beauty are in the eye of the beholder. I stopped trying to figure everything out a long time ago."

「ぼくはいつもシンガーであり、おそらくそれ以上のものではなかった。ときには、物事の意味を知るだけでは充分と言えない。ときには、物事が意味しないことをも知らなければならない。たとえば、愛する人のできることを知らないということが何を意味するのかといったことだ。すべてのものは崩壊した。とくに法や規則がつくる秩序は崩壊した。世界をどう見るかで、ぼくたちが何者であるかが決まる。祭の遊園地から見れば、何もかもが楽しく見える。高い山に登れば、略奪と殺人が見える。真実と美は、それを見る者の目に宿る。ぼくはもうずっと前に、答えを探すことをやめてしまった」

 

 僕はこの台詞が好きです。今回紹介するのは、なんとなくこんなことを僕は思い浮かべる1冊です。

 

不道徳教育講座

三島由紀夫
1967年1月20日第1冊発行
1999年4月20日改版第1冊発行
出版所:角川書店

https://instagram.com/p/9ycbr9E7M0/

13 #bokunojikan

 

 三島由紀夫が書いたエッセイです。以前紹介した「ヨーロッパ退屈日記」は1963年『洋酒天国』1月号が初出あり、一方「不道徳教育講座」は1958年雑誌『週刊明星』7月27日発売の創刊号は初出あるらしいので、少し三島が先ということでしょうか。しかし、いま風のエッセイが本格的に確立したのはこの時期なのでしょうか。

 どちらもエッセイですが、作風は待ったことなっています。伊丹は気取りかたを講じていますが、三島はひねくれた態度でジョークを持ちかけてくる、そんな印象を僕は受けました。

 しかし、共通している部分があるようにも感じました。

 ただ、二人とも自殺してしまっているというのが、なんというか、一番ジョークだと言って欲しいことであります。

 

 

不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

 

 

自由論

 一口に「古典」といっても様ざまなあるわけでして、小説にも種類がありますし、小説以外にも「古典」は拡がっているのです。

 そんな当たり前のことをようやく発見し心躍らせる今日この頃ですが、ハードな噛みごたえな作品がどうしても多いので、ゆっくり時間をかけないと現代人の顎の力ではすぐに消化不良を起こしてしまいそうです。

 そんなこんなで、鍛えること、消化器官系を整えることが、多くの「古典」を楽しむのには必要なのだとやっと気が付きました。

 ただ、鍛えたいのではなくて楽しみたいのですから、普段の食事からゆっくりとマイペースに味わっていきたいなぁ。

 そこで、授業で手に入れていた本をゆっくりと読んでみました。

 

On Liberty

ジョン・スチュアート・ミル John Stuart Mill
1859年

自由論

光文社古典新訳文庫
訳者:斉藤悦則
2012年6月20日第1刷発行
発行所:光文社

https://instagram.com/p/9qw68nE7DX/

12 #bokunojikan

 

 ミルはイギリスの哲学者でありますが、「質的功利主義者」としての方が有名かと思います。

 満足な豚であるより、不満足な人間である方が良い。 同じく、満足な愚者であるより、不満足なソクラテスである方が良い。 そして、その豚もしくは愚者の意見がこれと違えば、それはその者が自分の主張しか出来ないからである。 <『功利主義』第2章>

 といった言い回しをきいたことを僕もなんとなく覚えていました。というのも、話題となった東大の元教養学部石井洋二郎の式辞のなかでも触れられたから覚えていたのだと思います。(一応リンク先を載せておきます。)

平成26年度 教養学部学位記伝達式 式辞 - 総合情報 - 総合情報

 少し脱線してしまいましたが、僕は本書をよんでミルのイメージが変わったような気がします。というのも、本書で語られる「自由論」は徹底的な「自由主義」そのものだからです。 それは少し引用するだけでも伝わると思います。

 例えば、第1章「はじめに」で

本書の目的は、きわめてシンプルな原理を明示することにある。(中略)その原理とは、人間が個人としてであれ集団としてであれ、ほかの人間の行動の自由に干渉するのが正当化されるのは、自衛のためである場合に限られるということである。<P29/L9>  

自分自身にたいして、すなわち自分の身体と自分の精神にたいしては、個人が最高の主権者なのである。<P30/L13> 

とはっきりと述べています。

 そして、第3章「幸福の要素としての個性」では、 

 現代人が自分に問いかけるのは、つぎのようなことである。すなわち、自分の地位には何がふさわしいのか。自分と同じ身分、同じ収入のひとびとは、何をするのがふつうだろうか。自分より身分も高く、収入も多いひとびとは、何をするのがふるうだろうか。

 (中略)現代人は、世間の慣習になっているもの以外には、好みの対象を思い浮かばなくなっているのである。<P149/L2>

と述べているし、続けて

われわれはなるべく変わった人になるのが望ましい。<P163/L6>

とも述べています。決して「社会主義」的考えではないことはわかりますし、今ある「資本主義」とはかけ離れている考えのようにも思えます。一読することで、ミルは僕にとって「功利主義」の人ではなくなっていました。

 

こういう本を読むと、「方法の時代」というのは今を正にいい表しているのではないかと改めて感心してしまいます。それだけ、過去の人たちの本を読めば一通り問題は定義され、発見されていることに簡単に気がつくことができる世の中なのだと思います。ですが、だからこそ、僕でも1冊本を手に取るだけでとても効率的にまた一歩世界を知れたような気分になります。

 そう、「気分」です。ですが、「方法」を探るのには、今はこれでいいのかなって思っています。

 

 

自由論 (光文社古典新訳文庫)

自由論 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: ジョン・スチュアートミル,John Stuart Mill,斉藤悦則
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: 文庫
  • 購入: 2人 クリック: 149回
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月と六ペンス

 英米の骨太な作家の作品群をもっともっと触れていきたいという欲望が最近強まってきています。

 そんなことを思っているときに、雑誌MONKEYのvol.7、特集「古典復活」で村上さんとの柴田さんの対談が乗っていて、とても魅力的に「古典」作品の入り口を提示してくださっているのを読みました。今、僕たちが尊敬し、触れ親しんでいる最前線で活躍する作家さん方が若き頃に触れてきた作品というのは、僕たち世代に取ってもやはりルーツであるし、廃れることのない魅力があるように感じるのです。

 ですから、これを参考にしつつ、少しづつかいつまんで作品を読んで、取り上げていければなと思っています。

 

The Moon and Sixpence

サマセット・モーム William Somerset Maugham 
1919年

月と六ペンス

StarClassics名作新訳コレクション
訳者:金原瑞人
2014年4月1日第1刷発行
発行所:新潮社

https://instagram.com/p/9oF_xME7LJ/

11 #bokunojikan

 

 サマセット・モームはイギリスの小説家で、長年諜報活動を行っていたという異色の経歴をもちます。昔は英文和訳の参考書とかに多く載っていたとか。平明な文体と巧妙な筋書が特徴の作家と言われています。

 モーム初めに選んだのには特に意味はないのです。ただなんとなく、新訳バージョンのデザインに惹かれたからです。青と黄色のシンプルな色使いが特徴的です。黄色で描かれた中央部の最上段のマークと、タイトルを囲む記号?には何か意味があるのでしょうか。すみません、少し調べましたがわからなかったです。

 

 内容ですが、人間の矛盾、人間の原始的な欲求といった主題を、「私」である作家と「ストリックランド」や「ストルーヴェ」などの画家という「文化」や「芸術」に生きる人を焦点にあてることで解き明かそうとしているように、僕は感じました。

 それを簡潔で平易な文で書いてるところがモームの凄さなのではないでしょうか。

人間というものがどれだけ多くの矛盾を抱えているか知らなかったのだ。(中略)狭量と気高さ、悪意と慈悲、憎悪と愛、それらはみな、ひとりの人間の心の中に共存している。<P99/L6>

人生にロマンスを見出すには、役者の素養がなくてはならない。一歩引いて自分の行動をながめる能力が必要だ。好奇心を持って、遠からず近からずの距離から。<P263/L12>

という文章なんか、なんとも鋭く言い得て妙だと感じました。

 随所に、イギリス人の皮肉を楽しめるのもこの本の面白さでしょうか。他のイギリス文学作品も多く読んで、ウィットに富んだ人物となりたいものです。

 

 

月と六ペンス (新潮文庫)

月と六ペンス (新潮文庫)